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はじめての論文

最終更新:2018.04.02、文書作成:2006.06.18

私の「1本目の英語論文」ができあがるまでのドキュメント。

アイデア先行で文章としてまとめることができずにいたのですが、2018年3月に第129回日本森林学会大会にて機会をいただきまして「日本語の卒論を英語の投稿論文に仕立てた経験談」というタイトルで発表しました。発表に使ったスライドを公開します。何かしらのエンカレッジになれば幸いです。
日本語の卒論を英語の投稿論文に仕立てた経験談

0.年表

2002年

02.22 卒業論文発表会

04.25 論文目次の作成開始

06.?? 卒論英訳: 先生に提出 → 一蹴される

 (08.20-09.05 観測 in マレーシア)

 (9-11月 観測 in 田無試験地)

10.12 第0稿 先生に提出 → チェック

10.22 第0稿 先生に提出 → チェック

11.08 第0稿 先生に提出 → チェック

12.02 第1稿 英文校閲

12.26 第1稿 投稿

2003年

03.19 第1稿 査読結果(Major revision)

05.03 第2稿 英文校閲

05.20 第2稿 投稿

07.14 第2稿 査読結果(Major revision)

10.08 第3稿 英文校閲

10.14 第3稿 投稿

11.26 第3稿 査読結果(Minor revision)

12.01 第4稿 投稿

12.03 第4稿 査読結果(Accepted!!!)

2004年

02.27 校正刷り到着

05.16 雑誌公開

05.17 別刷請求の初葉書

1.はじめに

この文章を書くわけ

論文を書くことによって自らが得た研究成果を世間に発信することは研究者の大切な仕事(役目・役割・義務)です.しかしながら論文執筆には大きな苦労が伴います.論理的な文章展開・分かりやすく誤解の生じない文章表現・先行研究の詳細なレビューなどが求められます.

しかしながら,小学校から大学までの学校教育で,そういった論理的な文章展開の練習の場が与えられることはほとんどありません.研究者として生きていこうとすると,突然実戦の場に立たされるわけです.卒業論文を経験するとはいえ,卒論は卒論でしかなく,ある程度「なあなあ」で済まされることがほとんどだと思います.研究者になるためには,「1本目の論文執筆」が最初の大きなハードルになります.

この文章は,1本目の論文が完成するまでのプロセスについて,自分の体験を1つの例として紹介するものです.研究者になろうとしている方の励み,あるいは研究者ではない人が研究者の生態の一部を知ってもらうための材料になってもらえれば幸いです.

2.論文執筆のきっかけ

先生・先輩のアドバイス

卒論も無事に終了し,修士課程に進学した4月のこと.この時点で既に博士課程進学を考えており,そのことを先生や先輩に相談したら「学振(*1)のためにも早めに論文を書いておいたほうが良い」というアドバイスを受ける.学振のDC1申請時に論文が1本あるとかなり有利とのこと(*2).給料もらいながら学生ができるという幸せな生活を夢見る.

そして「どうせ書くなら英語で書け」とのコメントに従い英語で書くことにした.英語で書くことを決めたのは,英語に自信があったからではなく,英語で書いたら「なんとなく格好いい」と思ったから.

先輩方にアドバイスされなかったらこの時点で論文を書こうとは思い立たなかったであろう.当時は,論文を書くなんて研究者として「はるかに遠いこと」だと思っており,卒論書きたての若造が論文を書くなんて考えは思いもつかなかった.研究者の仕事=論文執筆,の図式が頭の中に無かった.

*1 日本学術振興会の特別研究員のこと.博士課程学生,博士課程卒業後の若手研究者を育成するためのシステム.この公募に当たると2-3年間の給料が保証され,更に研究費も確保されるので(採用期間の間は)研究生活に不自由を感じなくなる.採用率は13%前後(当時).
*2 学振DC1を申請するのは修士2年の5月頃.この時点で投稿論文が受理されている or 印刷されている学生は稀であり,研究業績に論文を書けるのは誇らしい.

3.第0稿完成まで

まずは卒論の英訳から(2002年6月)

先生の指示を受けて,まずは日本語で書かれた卒論をそのまま英訳することに.高校受験を思い出しながら辞書片手にひたすら英訳.そういえば英文読解よりも英作文の方が好きだったっけ,と4年前の自分を思い出しながら作業を続ける.

手持ちの辞書に載っていないテクニカルターム(*3)の英訳に困る.「林内雨」「ヒノキ」「雨量計」(他にもいっぱい)って英語でどう書くんだ? 翌日,研究室の先輩からアドバイスを頂き,onlineの便利なサイト(英辞郎)も教えてもらった.ある程度のテクニカルタームはこのサイトで解決する.

そうこうしているうちに英訳完了.おそらく6月くらいに助手の先生に提出した(この頃は文書の保存・記録の仕方が中途半端であったため曖昧,年表に正確な日付を入れられない).根拠も無いのに「できましたよ」と少しの自信をもっていたように思う.変に達成感だけはあった.

しかしながら,提出翌日に先生から苦言.「とにかく読みにくい.論文英語になっていない.とりあえずこれを読んで書き直して」と『理科系の作文技術』『理系のための英語論文執筆ガイド』などのHow to本4冊ほどと原稿を渡される.ショック.

*3 テクニカルターム: 専門用語のこと.各々の分野でよく使われる用語.ちなみに「林内雨: throughfall」「雨量計: raingauge」「ヒノキ: Japanese cypress」.ちなみに自分の研究関連論文をたくさん読んでくると,似たような単語ばかりが使われていることが分かる.

英語と日本語の違い

How to本を読んでみて色々と納得.確かに自分の英語は高校英語・受験英語の域を出ていなかった.自分の第0稿と見比べながら,英語論文に必要なエッセンスを学んだ.

トピックセンテンス

日本語は結論や大切なことを最後に言う「尾括式」の文章構成が多い.それに対し英語は,結論や大切なことを最初に言う「頭括式」の文章構成が多い.特に,英語論文であれば,段落の最初に「この段落では○○を述べますよ」というキーとなる文(=トピックセンテンス)を入れて頭括式を志した方が良い.確かにそういう論文の方が読みやすい.斜め読みするときに便利.今で言えばブログなどの「タグ」が段落最初についているイメージか.

回りくどさを,無生物主語と動詞で解決する

英語はクドイ表現を嫌う.受動態表現は便利だが,多用すると回りくどくなる.日本語をそのまま直訳すると受動態の多い文章ができがちだが,無生物主語と動詞をうまく使うことで,受動態表現を回避できる.

冠詞の使い分け

a, theの使い分けが難しい.その文中に出てくる名詞が特定できるものであれば the が必要.特定できる条件は,以前にその名詞が説明されている,明らかに特定できる,など.多くの参考書を読んでみたが,言葉ではうまく理解できなかった.今もなお,感覚的な理解.

停滞期

上記のような英語と日本語との差異について,その当時に理解したわけではない.とにかく英語と日本語は違うんだなあと,何となく感じた程度.

読みながら自分の論文を直さねばなあと思ってはいたのだが,観測が始まりそうだった.「観測が始まるから仕方ないよね」と免罪符的な言い訳を見つけてしまったことにより,論文執筆が滞る.よく考えると逃げてただけなんですが.

そんなこんなで論文執筆が停滞気味になった.一度逃げ腰になってしまったので,なかなか腰が上がらない.「今日は観測したデータを解析しよう」「起きたのが遅かったから論文執筆する気分じゃないよね」「バイトがあるから今日はまとまった時間取れないし,明日にしよう」と次々に言い訳が.

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